恐怖に満たされた日常の崩壊

猟奇

私はこれまで恐怖というものを、ただの映画や小説の中の話としてしか捉えていませんでした。しかし、あの日を境にその認識は根底から覆されました。何をしたわけでもない。ただの普通の会社員として、日々の業務に追われる平凡な毎日を送っていた私が、突然想像を絶する恐ろしい現実に引きずり込まれることになるとは思いもしなかったのです。

あれは確か六月の雨の降る晩でした。仕事が長引き、帰宅が遅くなった私は人通りのない路地を急いでいました。家路を急ぐ途中、背後に視線を感じました。振り返っても特に誰かがいるわけでもなく、ただの気のせいだと思ってそのまま歩き続けました。しかし、何かが私を見ているというその不気味な感覚は振り払うことができませんでした。

そして、家に着いてドアを開けた瞬間、背中に冷たいものが走りました。誰かの視線はまだ私を見つめているような気がしたのです。家の中に入ってもその感覚から逃れることはできず、あの視線の正体を探ろうと玄関を何度も振り返りました。しかし、やはり何も見えませんでした。不安を抱えたまま、その日はそのまま眠りにつきました。

翌日、出勤しようとドアを開けると、玄関に不自然に置かれた一通の封筒が目に入りました。誰かが間違って置いていったのかと思い、何気なく封筒を破ると、中から出てきたのは一枚の写真でした。それは私が昨晩通ったあの路地の写真で、私が無防備に歩いている後ろ姿が写っていました。喉が引きつり、手からその写真が落ちました。悪い冗談に違いないと思いましたが、恐怖は止めようのない勢いで私を飲み込み始めました。

その日以降も奇妙な出来事が続きました。仕事から戻ると、また部屋のドアの前には封筒があり、それらには私の日常が盗撮された写真が一枚ずつ入っていました。私は震えながらこれらを躊躇せずに処分しましたが、その度に不気味な何かが近づいていることを感じずにはいられませんでした。

ある晩、とうとう何者かが私の部屋に侵入しました。ベッドの下に隠れていたのです。夜中、何かの物音で目が覚めた私は、薄暗い部屋の中で動く気配を感じ、すぐに身を固くしました。気を紛らわせようと心拍音を抑え、息を潜めて耳を澄ませます。そして、その恐ろしい視線の主がベッドの下でこちらをじっと見つめていることに気づいたとき、全身が凍りつきました。

咄嗟に部屋から飛び出し、手が届く限りのドアを全て施錠しました。壁に耳を当て、中の様子を伺いましたが、ベッドの下に潜む者の存在を思い起こすと、今にも心臓が口から飛び出しそうで、正気を保つのがやっとでした。

警察を呼んだところ、彼らが到着するのはそれから30分後でした。部屋へ戻る勇気もなく、ただ震えながら待ち続けました。彼らが調査を行った結果、ベッドの下には確かに誰かが侵入した痕跡があったと言われました。しかし、その者は既にどこかへ消え去っていました。

それからというもの、私は一人で眠ることが怖くなり、頼れる友人の家を転々とする生活を始めました。この事件については、犯人はいまだに捕まっていません。後日警察がいくつかの未解決事件と関連を持ってこの事件を調査をしていることを聞きましたが、詳細は伏せられました。

私の日常は狂気に満たされ、薄れるどころか増幅するばかりです。あの夜以来、どこにいても誰かの視線を感じ、普通の生活がどれだけ脆弱で、危険に満ちているものか、身に染みて思い知らされています。私にとっては普通の通勤路も、日常の些細な行動も、今ではすべてが逃れられない恐怖の対象でしかありません。

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