山間の奥地、忘れ去られた静寂の村に、一地区の若者グループが安らぐために訪れた。彼らは都会の喧騒から逃れ、数日間の休暇を求めていた。古びた石造りのコテージは、まるで昔日の記憶を語るように佇んでおり、周囲には濃密な森が限りなく広がっていた。未だに残る夏の蒸し暑さが、森の奥深くを包み込んでいる。
夕暮れまでには、若者たちはコテージに荷物を解き、長旅の疲れを癒そうとした。山の静けさが、まるで時間までもが止まったかのように重くのしかかっていた。その静寂は街に戻りたくなった時のような危うさを宿し、暗闇が迫る度に一抹の不安を掻き立てた。
夕食は手早く準備され、不揃いの椅子に腰掛けながら彼らは美味を楽しんでいた。酒の力も手伝って、場の雰囲気は賑やかになっていった。降り注ぐ月明かりが窓を通して部屋を優しく照らし、彼らの影を床に落としていた。
夜も深まると、やがてグループの一人が怪談を持ち出した。「この村には昔から奇妙な話があるらしい」と彼は切り出した。皆、興味を持ちその話に耳を傾けた。彼が語るところによると、この村はかつて、奇妙な消失事件に見舞われたという。村人たちがある日、忽然と姿を消し、二度と戻ってこなかった。その後、数人の者が村を訪れるも、何故か誰も長く留まる者はいなかった。
皆がその話の結末を待つ中、突然、コテージの電気が不意に消えた。驚きと共に一同は静まった。真っ暗闇の中、ほんの僅かに笑みを浮かべる者もいれば、不安げに周囲を見渡す者もいた。誰かが「大したことじゃない」と肩をすくめ、小さな懐中電灯を取り出した。光源は小規模ながらも暖かく、彼らを取り囲む暗闇に僅かな救いを与えた。
しかし、その時だった。遠くで、耳障りな物音が響いた。一瞬の静寂を裂くように、不気味な音が山肌に反響する。何かが、いや何者かがコテージの周辺にいるのではないか。そんな不安が彼らの心に広がった。僅かな光源に誘われるように、皆は一箇所に集まり震えながら耳を澄ました。
屋根裏から何かが這う音が聞こえる。さらに奥からは、時折、微かな囁き声のようなものが風に乗って流れ込んでくる。「屋根裏に何かいるのか?」誰かが不安げに口を開いたが、確証はなかった。しかし彼らは、その音の正体を確かめようと決心し、意を決して屋根裏へと続く階段を上り始めた。
狭い階段を恐る恐る進む若者たちの姿は、まるで古びた絵画の一部のようだった。木材が軋む音が階段下に響き、心拍を速めた。不気味な寒気が全身を包み込んでいく中で、とうとう屋根裏の扉に辿り着いた。誰かが扉に手を掛け、心を決めてゆっくりと押し開けた。
屋根裏は思っていたよりも広かったが、古びた箱や埃をかぶった家具が雑然と散らばっているばかりだった。懐中電灯の光が長い影を作り、何もないはずの屋根裏を不気味に映し出す。しかし、そこには何もいなかった。「気のせいだったのか」と自分たちの疑念を振り払うように、彼らは互いに顔を見合わせた。
その時――誰かがドアを閉める音が下の階で響いた。「今の音、聞いた?」誰もが動きを止め、不安げに耳を澄ました。またしても、不気味な音が下から響いてくる。次第にその不安は恐怖へと変わり、彼らは階段を駆け下りた。
しかし、一階に戻ってきた彼らを待っていたのは、異様な光景だった。全ての出口は、何者かによってしっかりと閉ざされ、まるで囚われの身のように彼らはこの古びたコテージの中に閉じ込められてしまっていた。幾度もドアを押し開けようと試みるが、全くびくともしない。窓も同様に固く閉ざされ、外界との繋がりは完全に断たれていた。
彼らは次第に追い詰められていった。暗闇が再び迫り来る中、不安は徐々に恐怖へと変わり、その表情には恐慌の色が浮かび上がった。再び物音が近づき、不意に窓の外から閃光が走った。雷のような光だが、音はない。その光が窓を強烈に照らし出し、どうしようもない存在感で若者たちを圧倒した。
パニックが頂点に達した時、一人の声が沈黙を切り裂いて叫んだ。「ここから逃げなきゃ!」しかしその言葉に反して、どの逃げ道も見つからず、彼らはこの古びたコテージの中に囚われ続けた。
その夜がどれほど長く続いたかは、彼らには知る由もなかった。恐怖に打ちひしがれながら、限られた光源だけを頼りに彼らは次第に疲れ果て、やがて沈黙の中で待つことを選んだ。彼らの意識が薄れていく中、窓の外から現れる光がまた一度、彼らを覆い尽くした。それは、永遠とも思える瞬間の中での一縷の希望だったのかもしれない。
明朝、日が昇ると同時に、彼らはある決意を胸に立ち上がった。何としても、この閉鎖された空間からの脱出方法を見つけ出す。想像を絶する恐怖を乗り越え、彼らは再び立ち上がった。再び階段を上り、すべての手段を試みながら、彼らはついに一筋の光を求めて動き出したのだった。
だが、その後彼らを迎えるのは、想像を絶する未知の恐怖であり、それはこの静寂の村の永遠の謎として、今なお語り継がれている。