古びた古地図に記されていたその場所は、長い間忘れ去られていた。地図が手に渡ったのは偶然だった。祖父の納戸を整理していた際、埃まみれの古書の間からひょっこりと顔を出したのである。それは精巧に描かれた美しい地図であったが、そこにはひとつ、不思議な点があった。地図の中央には、小さな村が描かれているのだが、どこにもその名前が記されていないのだ。ただ、村の中央に孤立するようにして立つ、奇妙にねじれた木だけが印象的な目印として描かれていた。
主人公の修司は、その地図に引き寄せられるように、現代の地図には載っていないその村を探し始めた。彼は都市計画の研究者であり、未知の地がどのような変遷を辿ってきたのかに興味があった。過去に置き忘れられた村は、どのような運命を迎え、そして何故その存在を人々の記憶から消してしまったのか。それを突き止めることこそが、自らに課された使命であるようにすら思えた。
村へと続く道は、やはり容易ではなかった。道なき道を進むその旅路は、厳しいものであった。鬱蒼と茂る木々に覆われた山道を進む毎に、彼は不思議な感覚に襲われた。ひやりとするぞっとした感触に似たものが、皮膚を這う。この道は今まで誰の足跡もつけられていないかのように、朽ち果てた木々に遮られている。しかし、どうにかその道を抜け、彼はようやくその村の入り口に足を踏み入れた。
村はひどく静かで、風すら中に入り込むことを躊躇うように思えた。家々は昔のままの姿で、ひび割れた壁や割れた窓ガラスが時の流れを示している。他者の存在を微塵も感じさせないこの村に、一体何が起こったのだろうか。村の中央に立つねじれた木は、地図そのままの姿で修司を出迎えていた。彼はその木の下に立ち、地図に描かれた謎を解き明かそうと、村の探索を始めた。
村の奥深く、修司は不気味な石碑を見つけた。風化しかけた文字は読みにくくなっていたが、それでも「罪を犯した者、ここに断つ」と刻まれている。その内容に、かすかな恐怖を抱いた修司は、急いでこの場所を後にしようとした。だが、彼が村を出ようとしたその時、不思議なことが起こった。村の外れに足を踏み入れた瞬間、どうしてもその場を離れることができないのだ。視界に広がるのは、尽きることない道のりに見えた。
その晩、修司は村に宿泊することを選ばざるを得なかった。夜の帳が下り、彼を迎えるのは深い闇と吹きすさぶ風だけだった。古びた家の中で、彼は眠りにつくことにした。しかし、眠りに落ちた直後、耳の奥に響くような声が彼を呼び覚ました。
「ここを離れてはならない。お前も、それを選んだ。因果は巡り、呪いは永遠に続く。」
その声は、まるで地底の深くから響いてくるようだった。その言葉に従うかの如く、彼は震えながら周囲を見渡した。彼を囲む静寂の中に、何か異様な存在を感じ取っていた。
朝が来るとともに、修司は村の歴史を調べるため、村の僅かに残る資料を探り始めた。すると、一冊の古書が彼の目に留まった。その中には、かつてこの地に住んでいた村人たちのことが記されていた。その中で、村を永遠に覆う呪いについて語られていた。それは、過去に犯した罪が原因で、村の全てが永久に裁かれるというものだった。
この村は、一度犯した罪が未来永劫許されることなく、村人たちを縛り続けた。そしてその呪いは、村を訪れた者にまで影響を及ぼすという。修司はその呪いを、ただの迷信と片付けようとしたが、頭の片隅には恐怖がこびりついて離れなかった。彼はこの村を離れる決意を固めるが、その言いようのない悪寒がいつまでも彼の中から消えることはなかった。
その日、彼は再び村を抜け出そうと試みた。しかし、どうしても近づくことのできない困惑した感覚はさらに強まり、自分が道を間違えたかのように感じられた。何度も何度も試みたが、村を抜けることはできなかった。
日は暮れ、心底消耗し切った夕暮れ時。彼は理解した。自分はこの村の呪いに取り憑かれ、解放されることなくこの地に留まる運命にあることを。村の因縁は、彼さえも絡め取り、過去の罪が呼び起こされる。
彼が呑み込まれていくその闇の深淵は、何の前触れもなく彼を包み込み、過去の罪状を刻印するかの如く、彼を新たな二重の螺旋の中に引き込んでいった。このまま永遠に続く呪われた小さな村に、修司は消えていくしかなかった。罪と因縁の渦巻くその場所で、今もなお声がざわめき続けている。
こうして、修司はかつて村が抱えていた罪の背負い手となり、その名前は、失われた時間の彼方に消え去った。彼の物語は、誰の記憶にも残ることなく。それでもなお、村は彼を受け止め、彼は知らぬうちにその一部として永遠に刻まれ続けるのだった。