廃村調査での不気味な体験

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あれは、確か大学2年の夏休みのことだったと思います。ゼミの研究課題として、地方にある廃村の調査を行うことになりました。ゼミのメンバーは僕を含めて5人。普段は冗談ばかり飛び交う気心知れた仲間たちと、指導教官の橋本教授のもと、一週間ほど滞在することになったのです。

その村は、地元でもあまり知られていないと言われていました。十数年前に廃村となった理由も定かではありませんでしたが、そんな場所だからこそ、何か面白い発見があるのではないかと期待に胸を膨らませていました。

村に着いた初日、僕たちは現地の様子をざっと見て回りました。荒れ果てた家々、草に埋もれた道、まだ残る朽ちた家具。どこか物悲しい雰囲気が漂っていましたが、特に不安を感じるようなことはありませんでした。

その日は、古びた村役場らしき建物を拠点にして、テントを張りました。夜になると、森の中からカエルの声や虫の音が聞こえてきて、なんだか妙に安心したのを覚えています。自然に囲まれたこの場所で、僕らの調査は順調に進んでいくはずでした。

次の日から、捜索範囲を広げて村の奥深くまで足を運びました。古い神社や小川の跡、かつての学校らしい木造の建物。すべてが時間に取り残されたように静止していました。その日の夕方、橋本教授がふと口を開きました。「この村は、一度お祭りを開いたことがあったらしいんです。しかし、お祭りの最中に原因不明の火災が起きて、それが村が廃れた直接の原因だったという話があります。」

誰もその火災の詳しいことを知らない。何か調べればわかるかもしれないけれど、そう教授は言葉を濁しました。僕たちはその話に興味をそそられ、予定していた調査を早めに切り上げ、火災の痕跡を探すことにしました。

夜、その話題が蒸し返され、僕たちは火災の痕跡を見つけるために古戦場跡まで足を運びました。しかし、行けども行けども、火災を示すような痕跡を見つけることができませんでした。むしろ、村にはそのような記憶を塗りつぶすように、非常に穏やかで静かな夜が訪れていました。そして、その静けさに僕は少し不安を感じ始めていました。

その日も村役場で夜を過ごすことになりました。就寝前に、一人が「あの火災のこと、なんだか気持ち悪いよな」とぼそりと呟きました。しかし、その時は誰も深く考えることはありませんでした。ただ、翌朝の出来事が、僕たち全員を困惑させ、そして恐怖に陥れることになったのです。

夜中、僕は喉の渇きで目が覚めました。テントの外にあった水筒を取りにいくために、テントのジッパーを開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできました。背筋を寒いものが走るのを感じながらも、水筒を手に取りました。そして、ふと気がつくと、テントのすぐ前に、人影が立っていたのです。

その人影は動かずに、じっとこちらを見ているようでした。暗闇の中ではっきりとその姿を捉えることはできませんでしたが、背の高い男性のように見えました。僕は恐怖に抑えられ、声を出すことも、動くこともできませんでした。その間、その人影はただこちらを見つめていただけでしたが、やがてすっと消えてしまいました。

その晩、僕は一睡もできずに朝を迎えました。朝食時にその出来事を仲間に話したところ、皆一様に驚いた顔を見せました。さらに、一人が「あれから僕も変な気配を感じてね。不気味だったよ」と語りました。他のメンバーも、何かが外にいるような気配を強く感じたと言い出したのです。

このまま調査を続けるべきか、それとも一度引き上げるべきか。結局、橋本教授の判断で調査を続行することになりましたが、それは少し誤った判断だったのかもしれません。

次の日、昼間の調査中に妙なことが起こりました。村の中心部へ向かう途中、不意に辺りの音が消えたのです。カエルや虫の声が、突然ぱったりと止まりました。そして、その静寂の中で、どこからか鈴の音が聞こえてきたのです。

鈴の音は遠く、風に流されるような不規則なリズムで響いていました。他のメンバーもその音に気がつき、全員が音のする方向に集中しました。しかし、音がしたと思われる方角に近づいても、そこには何もありませんでした。鈴の音は、遠くから僕たちを試すかのように、少しずつ場所を移動していました。

時間が経つごとに、僕たちは次第にその音に不安を覚えました。一人が「もう帰ろう、これ以上は無理だ」と言い出し、全員が同意しました。調査は打ち切り、村を後にする準備をしました。

その夜、キャンプ場で休んでいた僕たちのもとに、再びあの鈴の音が近づいてきました。仲間の一人が「音の出どころがわかれば安心できる」と言い、狂ったように音を追ったのです。しかし、暗闇の中でたどり着くことができたのは、ただの草むらでした。

音の正体は結局わからずじまいでしたが、翌朝、橋本教授が「これはどうもこの村に何か未解決のことがあるようです」と語り、僕たちは早急に引き上げることが決まりました。村を去る間際、僕たちを見送るかのように、また鈴の音が重く響き渡りました。

帰路につきながら、あの静けさと鈴の音が心に残り続けました。東京へ戻った後も、あの地で起こったことが何であったのか考えずにはいられませんでした。それ以来、僕の中で鈴の音は不気味で謎めいた存在となり、決して忘れることができない体験として心に刻み込まれています。

これが、僕が体験した夏の恐怖です。あの村にはまだ、何かが住みついているのかもしれません。それは、ただ眠っているのかもしれないと考えると、背筋が寒くなります。

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