これは、私が大学時代に経験した、本当にあった怖い話です。具体的な場所は伏せますが、知る人ぞ知る、地元では有名な廃寺が舞台です。そこは、長い年月を経て薄暗く朽ち果て、誰も寄り付かないような雰囲気を漂わせていました。特に夕暮れ時になると、一層その異様さが際立ちます。
ある夏の夜、大学の友人たちと心霊スポット巡りをしようという話になりました。私たちは好奇心から、その廃寺を訪れることにしたのです。「触れてはならない場所」だという噂を知っていながら、若さゆえの無謀さが後押ししました。
廃寺に着いたのは、ちょうど夜の9時頃でした。周囲はすでに真っ暗で、懐中電灯のライトだけが頼りです。鳥居をくぐると、異様な静けさに包まれました。普段はどこにでもいる虫の鳴き声すら聞こえないんです。そんな不気味さを無視するかのように、私たちは本堂へ向かって進みました。
本堂に着くと、長年放置されている様子が伺えました。木の扉は半ば壊れ、隙間から冷たい風が吹き込んできます。そこで友人の一人が、「中に入ってみよう」と提案しました。正直、私は躊躇しましたが、他の友人たちに促される形で入りました。
内部は想像以上に荒れ果て、床の一部は腐っていました。さらに進むと、仏壇が置かれた場所にたどり着きました。そこには、無数の古びたお札が貼られていましたが、何かを封じるかのように乱雑に配置されているのが気になりました。その光景を見た瞬間、心の底に警鐘が鳴り響いたのを覚えています。
しばらくその場に立ち尽くしていると、突然背中にひやりとした感触を覚えました。振り向いても誰もいない――と思った瞬間、後ろにいた友人が「今、何か聞こえなかった?」と言い出しました。彼の顔は青ざめており、冗談を言っている様子ではありません。
耳を澄ますと、確かに誰かの耳元で囁くような声が聞こえてきました。はっきりとした言葉にはならないのですが、何かを訴えているようです。そしてその声は、仏壇の方向から聞こえてくるのです。他の友人たちもそれに気づき、場の空気は一気に凍りつきました。
「もう出よう」と、誰ともなく声が上がりました。しかし出口に向かおうとした瞬間、仏壇の奥からカタカタと音がしました。古びたお札が一枚、また一枚と風に舞い上がるさまを見て、私たちは全員全速力で本堂を飛び出しました。
廃寺から一刻も早く離れたい一心で、帰り道を駆け抜けるように歩き続けました。気がつくと、廃寺の外にある鳥居の前まで来ていました。そこでふと立ち止まり、全員で顔を見合わせました。あの時、全員が同じ体験をしていたことが、何よりの証拠だったのです。
その後、私たちは二度とその廃寺には近づきませんでした。地元の人に聞いたところ、かつてそこに住んでいた僧侶たちが、何かしらの理由で非業の死を遂げたという噂があるそうです。また、その場所が「触れてはならない場所」として、かつて厳重に管理されていた理由も、深い怨念が関係しているのではないかと、今では思わざるを得ません。
今思い返しても、あの恐怖は鮮明に記憶に刻まれています。私たちは知らぬうちに禁忌を犯し、あの夜、廃寺に宿る何者かの怒りを買ってしまったのかもしれません。それ以来、私は心霊スポットには近づかないようにしています。あの時の経験が、私の中で触れてはならない場所の意味を深く教えてくれたからです。
この体験を通じて、禁忌には理由があるのだと強く感じました。皆さんも、興味本位で触れてはならないところに踏み込むことのないよう、ご注意ください。