幽霊部屋が囁く宿泊体験

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私は、友人たちと地方の古びた旅館に泊まることにしました。何の気なしに選んだ場所でしたが、到着してみると、周囲の山々に囲まれ、外界から隔離されたような独特の雰囲気がありました。受付は昔ながらの木造建築で、従業員も古風な印象を持つ人ばかりでした。

最初の夜、私たちの部屋は2階の角部屋でした。部屋に入ってすぐ、何か古くからの異様な感じが漂っていることに気づきました。しかし、それほど気にすることなく、荷物を置いて夕食に向かいました。食事も無事に済ませ、大浴場でのんびりとして部屋に戻った私は、すぐに眠りに落ちました。

夜中のことです。ふと目を覚ますと、廊下から静かに名前を呼ぶ声が聞こえてきました。最初は耳鳴りかと考えましたが、どう考えても実際に呼ばれているようでした。不安になりつつも、部屋の扉をそっと開けて廊下を覗きました。しかし、そこには誰もいません。戻ろうと思った瞬間、背筋をなぞるような冷たい風を感じたのです。急いでドアを閉め、布団に潜り込みましたが、眠るどころか全身が怖ばり、心臓の鼓動がやけに早く感じました。

翌朝、夢だったのだろうと思い直しました。友人たちにこの話をしましたが、誰も気のせいだと言って相手にしません。それでも何となく心に不安を残しつつ、一日を過ごしました。その日は近くの観光地を巡り、山へハイキングにも行きましたが、どうにも気持ちが晴れません。

二度目の夜、再び同じ部屋で過ごしていると、深夜にまたもや目が覚めました。今度は耳元で囁くような声がしました。「ここはお前たちの来る場所じゃない」。だんだんと声が強くなり、気がつけば部屋中に響いているようでした。恐怖のあまり体を動かすことができず、ただ布団の中で震えていました。友人たちはぐっすりと寝入っていたのか、何も気づいていない様子でした。

朝になり、意を決してこのことを再度皆に話すことにしました。私の言葉に少しずつ疑念を抱き始めた友人たちは、旅館の人にこの辺りで怪奇現象が起こったことはないかと尋ねることにしました。

驚いたことに、旅館のご主人は申し訳なさそうに語り始めました。どうやら、この旅館は数十年前に大きな火事に遭ったことがあるらしく、多くの人が逃げ遅れて亡くなったのだと言います。特に私たちが泊まった部屋周辺では、犠牲者が多かったようでした。以来、その部屋で様々な不可解な現象が繰り返されているが、何もできずにいるとのことでした。

それを聞いて、もうここにはいられないと私たちは急いで荷物をまとめてその旅館を後にしました。後日談をネットで調べてみると、やはり何人もの宿泊客が同じような体験をしていることがわかりました。語り草のように広まっているにも関わらず、具体的な解決策は見つからず、ただ問題の部屋は「幽霊部屋」として知られるようになっていたのです。

この体験を忘れることはできません。それはまるで今もなお、あの場所に留まった多くの魂たちが何かを訴えかけているかのようでした。あれ以来、私は宿泊先を選ぶ際には、必ずしっかりとした情報を確認するように心がけています。何より、あの旅館へ戻ることだけは決してないだろうと心に決めています。

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