幽霊の笑い声が響くアパートの恐怖体験

幽霊

僕がこの出来事を体験したのは、大学を出たばかりの頃だった。就職して数カ月、まだ仕事にも環境にも慣れていないころ、僕は都心から少し離れた古ぼけたアパートに一人暮らしを始めた。このアパートは築年数がかなり経っており、家賃が非常に安かったため、当時のお金のない僕には魅力的だった。

隣近所の住人は高齢者ばかりで、夜はどこか寂しい雰囲気が漂っていた。廊下も薄暗く、古い電灯が時折チカチカと点滅することがあった。最初は、そこに住むことに何の抵抗もなかった。安さと通勤の便利さで選んだ場所に過ぎなかったからだ。しかし、夜になると何かが違っていた。

ある夜、仕事から帰って部屋でくつろいでいると、廊下から子供の笑い声が聞こえた。こんな時間に子供がいるわけがない、そう思って耳を澄ましたが、それは確かに子供の笑い声だった。気味が悪く感じながらも、その日は疲れていたため、深く考えずに寝ることにした。

数日経っても、その夜のことが頭から離れなかった。そして、僕はある同僚にその話をすると、彼は興味津々に話を聞いてくれた。「それ、いわくつきのアパートなんじゃない?」と冗談めかしに言われたが、その言葉が妙に心に引っかかってしまった。

その後、またしても夜中に子供の声が聞こえた。今回は笑い声だけでなく、囁くような何かを話している声だった。僕は意を決して、部屋を出て廊下を見てみることにした。しかし、そこには誰もいなかった。辺りを見回しながら部屋に戻る直前、ふと下を見下ろすと、床に小さな子供の足跡が湿ったように残っていた。

驚きと不安で心がいっぱいになった僕は、再びアパートの住人に話を聞くことにした。隣の部屋に住むおばあさんが出てきてくれたが、子供の話をすると表情が曇った。「あんたも聞いたのかい。あれはこの建物に取り憑いている幽霊だよ」と、おばあさんは重い口を開いた。

おばあさんによれば、数十年前、この建物には若い夫婦とその小さな息子が住んでいたらしい。しかし、ある日突然、奥さんは息子を残して姿を消した。夫は絶望し、やがて仕事にも行かず家に閉じこもるようになったという。ある夜、床が抜けるほどの音で隣人が駆けつけると、夫が天井から首を吊っているのを見つけた。その後、息子もショックからかすぐに後を追うように亡くなったという噂があった。

その話を聞いてからというもの、夜が来るのが恐ろしく感じられるようになった。しかし、そこでさえも夜は訪れ、再び子供の声が聞こえる日々が続いた。ますます声は近づき、ある夜には囁きが聞こえるほどだった。

「あそぼうよ、おにいさん。」

思わず電気をつけたが、誰もいなかった。ただ、隅のほうでちらちらと淡い人影が揺れているのを感じた。恐怖で頭が真っ白になった僕は、その場から動けなくなった。すると、ニヤリとした子供の顔が、一瞬電球の陰で浮かび上がった気がした。

しばらくして、その影は消えてなくなったが、その時の恐怖が消えることはなかった。僕はどうにかしてこの部屋から逃げ出したいと思った。会社に相談し、なんとか借金してでも引っ越しを決意した。引っ越しを終えてから数週間、心の平穏を取り戻しつつあったが、あのアパートに置いてきた家具や荷物になにか異変がないかと気になった。

心配になった僕は友人と共にアパートに戻り、部屋を見に行った。すると、ひんやりと冷たい空気が漂う部屋の片隅に、以前と変わらぬ子供用のミニカーが静かに佇んでいた。僕がそれに近づくと、突如としてミニカーが自ら動き出し、足元にまるで誘導するかのように転がった。

友人は半ば興味本位で部屋を探索し始めたが、次第に、その場にいることが耐えられなくなった僕は、足早に部屋を去るしかなかった。再びそのアパートに行くことはなかったが、今でも夜になると、どこかであの笑い声が聞こえるような気がしてならない。

こうして、僕の恐怖体験は終わりを迎えた。しかし、あのアパートにはまだ彼らの霊は漂っているのかもしれない。もしこれを読んでいる皆さんの中に引っ越しを考えている方がいるなら、いわくつきの物件にはどうか注意してほしい。そこには、僕のように恐ろしい体験をした人間以外にも、成仏できない霊が住んでいるかもしれないのだから。

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