僕がこの話を書く決心をしたのは、自分の中で決着をつけたかったからです。誰にも信じてもらえないかもしれませんが、僕が体験したことを皆さんに知って欲しいんです。一部始終を話すのは辛いですが、ここでシェアすることにします。
これは、僕が大学生の夏休みに友人たちと田舎の山奥にあるキャンプサイトに出かけた際の出来事です。予定していた大人数が都合でキャンセルとなり、結局残ったのは僕を含めた5人だけでした。まあ、それでも楽しめるだろうと車に乗り、山道を進んで目的地に向かいました。
キャンプサイトはかなり山奥にあり、人里離れた静かな場所でした。空気は澄んでおり、夜になると星が驚くほど綺麗に見えると友人が話していました。このキャンプを発案したのは、三宅という少し変わった趣味を持つ友人で、彼はいつも「普通じゃない」経験を追い求めていました。今回は彼の計画で、この誰もいないキャンプサイトを1週間貸し切ることにしたのです。
到着したのは初日の昼過ぎで、僕たちは早速テントを張り、キャンプファイヤーの準備を始めました。キャンプサイトは広く、周囲は高い木々に囲まれ、まるで我々が異世界に迷い込んだかのようでした。開放感のある場所でしたが、どこかしら不思議な違和感を感じました。それが何だったのか、その時点でははっきりしませんでした。
夜になり、僕たちはキャンプファイヤーの周りに集まりました。涼しい夜風が心地よく、焚き火の音が安心感を与えてくれました。その夜は、次の日の予定を話したり、ホラー映画の話題で盛り上がったりして楽しく時間が過ぎていきました。
しかし不思議なことが起きたのは、その夜中のことでした。深夜2時頃、僕は妙に目が覚めてしまいました。とても静かな夜で、他の友人たちは静かに寝息を立てていました。僕は何となくテントを出て、星空を眺めようと外に出ました。
キャンプサイトは燃え残りの焚き火がほのかに光を放っており、その光に照らされて周りがぼんやりと見渡せました。ふと、サイトの端に人影を見たような気がしました。確かめるために目を凝らしましたが、そこには何もいませんでした。僕はただの見間違いだと自分を納得させて、もう一度寝袋に戻りました。
翌日、三宅が突然、森の中に隠された「不思議な場所」を探そうと言い出しました。彼の話によると、その場所はこのキャンプサイトのどこかにあり、見つけた者には不思議な何かが起こるらしいのです。ちょっとした肝試しのような気持ちで、皆もその提案に乗り気になりました。
その日の午後、僕たちは三宅を先頭に森の中に分け入りました。細い獣道を進み、森の奥に入り込んでいったんです。しかし山奥の森は思った以上に複雑で、最初は楽しかった探検も、次第に不安に変わっていきました。スマホの電波も通じず、頼れるのは三宅の持つ古びた地図だけでした。
1時間ほど歩いたところで、突然、僕たちは開けた場所に出ました。そこには古い小屋がポツンと建っていました。西洋風の作りですが、どう見ても何年も使われていないように見えました。僕たちは興味津々に小屋に近づきました。三宅は「多分これが例の場所だ」と言って、中を調べたがりました。小屋の中は埃だらけで何も特別なものはないように見えましたが、三宅は満足そうにしていました。
その夜、僕たちは少し疲れていつもより早めに寝ることにしました。しかし、夜中にまたもや目が覚めました。テントの外から何か音が聞こえたように思ったんです。何かが這うような、不規則で軽い音。それを聴いた瞬間、全身に嫌な寒気が走りました。何が起こっているのか確かめるため、勇気を振り絞ってもう一度外に出ました。
外に出て耳を澄ませると、その音は確かに森の方から聞こえてきました。どうしてもその正体が気になり、懐中電灯を持ち出して音のする方に向かいました。僕の足元の小石を踏む音が響くのが、やけに大きく感じました。
近づくにつれて、音はどんどん鮮明になり、何かが這いずりまわる音だというのが分かってきました。それは動物などではなく、人か何かが這い回っているような音。照らしている範囲には何も見えないのに、音だけが確実にこちらに近づいてきているのです。
突然、光が影を捉えました。それは人のような影。でも、どう見ても普通の人間ではありませんでした。影は歪んだ形をし、異様に長い手足を動かしていました。僕は息を潜めてその場に固まってしましました。すると、その影がゆっくりとこちらに顔を向けました。その顔を見た瞬間、僕は言いようのない恐怖が体を駆け抜け、逃げ出していました。
何とかテントにたどり着き、中に飛び込むと、他の友人たちも目を覚ましました。僕の様子を見た皆は心配してくれましたが、何があったのかと聞かれたとき、言葉が出ませんでした。震える冴えない口調で事情を話しましたが、信じてもらえたかどうか分かりません。でも、その夜は誰も再び眠ることができませんでした。
翌朝、僕たちはこのキャンプサイトを早めに出ることに決めました。一刻も早くここを離れたかったのです。荷物をまとめ、車に乗り込んで、無言のまま山道を下りました。
あれから数年が経ちましたが、あのときのことを思い出すたびに、今でも僕の背筋は凍ります。あの影が何であったのか、未だに理解できません。当然ですが、二度とあのキャンプサイトには行くことはないでしょう。
僕が体験したことを信じるかどうかは皆さんにお任せします。ただ、もしあなたがこの話を読み、山奥の静かな場所で何かを感じたときは、思い出してください。そこには、何かが、確かに存在しているのかもしれません。