奇妙な村と神隠しの恐怖

神隠し

僕の名前は浩一と言います。今からお話しするのは、僕が大学生だった頃に体験した、本当に奇妙で恐ろしい話です。あまりにも不気味で、現実だと信じたくない出来事ですが、どうしてもこの場を借りて誰かに伝えたいと思いました。

あれは、ちょうど夏休みが始まった頃のことでした。僕は大学の仲間たちと一緒に、山奥にある古い小さな村に旅行に行くことになりました。その村には、時間から取り残されたような古風な雰囲気があり、普段の都会の生活とは違った癒しを求めるには最適だと考えていました。

僕たちが泊まったのは、村の外れにある古びた民宿です。そこには、昔から地元に伝わる不思議な言い伝えがありました。村の子供たちが時折、山へ入っていき、戻ってきた時には何かが変わっている。彼らは無表情になり、村の人々からも隔絶されたようになるといいます。

最初はその話をただの田舎の迷信だと思っていました。しかし、泊まった初日からその予感は現実味を帯びてきました。夕食の席で、地元の古老が話した言葉が僕の中で不安の種を蒔いたのです。

「この村には、『サカナツル』という神隠しの妖怪がいるんじゃ。気をつけるんじゃぞ。山で道に迷うと、奴に連れていかれてしまうかもしれん。」彼の言葉は笑い話としてはあまりにも深刻で、僕たちはその意味を図りかねました。

次の日、僕たちは村を探索することにしました。山道を歩き始め、数時間が経った頃、僕たちは古い神社を見つけました。鳥居は苔むしており、周囲には誰の手も加えられていない様子。僕たちの一人が言いました、「この先に行ってみようぜ。」誘われるままに僕たちは進みましたが、何か背筋に冷たいものを感じました。その時からです、何かが僕たちにまとわりついているような、奇妙な気配を感じ始めたのは。

その晩のことです。僕たちの仲間の一人、健がいなくなりました。初めは、あまり気に留めていませんでした。彼はきっとトイレに行ったか、少し散歩をしているだけだろうと思ったからです。でも、時間が経っても戻ってこない。僕たち全員で彼を探しに出ましたが、健の姿はどこにもありませんでした。

その時です。僕たちは再び神社の方向から何かを感じました。まるで、呼ばれているかのように、いつの間にか再びあの場所に足を向けていました。そこには、不思議な空気感が漂っていました。何かに引き寄せられるような感覚とともに、神社の方を見上げました。

突然、風もないのに木々がざわざわと音を立て始めました。その音に混じって、僕たちは確かに人の声を聞いたのです。それは明らかに健の声でした。「助けて、ここから出してくれ…。」その声は間違いなく健のものでしたが、どこから聞こえてくるのかは全く分かりません。

夜が明けると、村の人たちは何事もなかったように日常を送っていました。僕たちは警察に届け出ることも考えましたが、村ではそうした事態を取り合ってくれる雰囲気ではありませんでした。まるで、何もかもが秘密で覆い隠されているような、そんな異常な日常が流れていました。

それから何日かが経ち、僕たちはもう健を見つけることはできないだろうと思い始めていました。東京に戻る日、誰もが気まずい沈黙の中で荷物をまとめていましたが、その時、ふいに民宿の玄関に健が立っていました。

「おい、どうしたんだよ!どこ行ってたんだよ!」僕たちは彼に駆け寄りましたが、何かが違いました。彼の目は、どこか焦点が合っていないように見えました。以前の健の明るさは消え去り、彼は冷たい視線を僕に投げかけてきました。

それから数日後、僕の元に健からの電話がありました。電話越しに聞こえてきたのは、以前にはなかった低い声です。「浩一、俺はもう大丈夫だ。もう何も心配はいらない。」その言葉には奇妙な響きがありました。彼が村で何を見たのか、何を体験したのか、僕たちはついに知ることはできませんでした。

その後、健は大学を退学し、音信不通となりました。彼がどこに行ったのか、誰も知りません。でも、あの日以来、僕は『サカナツル』のことが頭から離れません。あの村に漂う違和感、そして異界に引き込まれた健のあの姿。今でも夢に出てきて、僕の心をざわつかせます。

もしかすると、あの村には本当に別世界への扉が開いているのかもしれません。僕はそれを確かめる術も勇気もないのですが、もしこの話に興味を持ったあなたが、あの村に足を踏み入れることがあるなら、決して軽い気持ちで山に入らないでください。この話が単なる空想であればどれほどいいか分かりませんが、僕には、あの村には何かしら不可解な真実が隠されていたのだとしか思えないのです。

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