これは私が実際に体験した話だ。この出来事が理屈で説明できるものか、それとも何か得体の知れないものなのか、それは読者に判断を委ねたい。
数年前、匿名掲示板で不穏なスレッドが立ち上がった。そのタイトルは「消えた友人を探しています」。内容はこうだ。投稿者Aは、大学時代の友人Bと久しぶりに再会することになった。しかし、その日を境にBが消息を絶ったというのだ。AはBの行方を追うため、ネット上で情報を集めていた。私もそのスレッドを興味本位で読み始め、次第に引き込まれていくことになるとは、この時点では想像できなかった。
スレッドにはAの書き込みが続く。「Bと最後に会ったのは地元のカフェ。午後3時に待ち合わせ、2時間ほどいろんな話をした。特に興奮していたのは、彼が近々引っ越しを予定しているという話題だ。新しい住まいは古いビルの一室で、そのビルには幽霊が出るという噂がある。しかし、Bは『そんなことは信じない』と言って笑い飛ばしていた」
その後、AはBと別れたが、その翌日からBと連絡が取れなくなった。電話もメールも返信がない。心配になったAは、Bの新しいアパートを訪ねたが、住所には何の目印もなく、荒れた雑草に覆われた空き地があるばかりだった。
この奇怪な状況に、スレッドの参加者たちは様々な仮説を立て始めた。ある者は、Bが姿をくらましたのは自らの意志であると主張した。別の者は、幽霊の噂を聞いたBが突然興味を持ち、そのビルに単身乗り込んで何らかの事件に巻き込まれたのではないかと推測した。
私自身もスレッドに参加しようと思った矢先、Aは更に詳細なエピソードを追加した。「そのカフェでの会話中、Bは『背後に誰かがいるような気がする』と言い出した。Bの背後には窓があり、外を見ても誰もいなかったが、その時のBの表情は真剣そのものだった」
しばらくして、Aは新たな証拠を掲示板にアップした。それはBのスマートフォンに残っていた最後のメッセージだった。内容はただ、短い単語が並ぶだけ。「助けて、見えている、彼らが来る」。発信元はBの新居近くとして記録されていた。
ここまで来ると、参加者たちの好奇心は恐怖へと変わっていった。私も、自らの理性を信じてこの不可解な状況に対する論理的な説明を求めたが、行き詰まりを感じ始めていた。人間がこのようにして消えることがありうるのか、それとももっと非現実的な力が働いているのか?
ある参加者は、この地域にまつわる過去の事件を調べ始めた。その結果をスレッドに投稿したのだが、それがまた一層謎を深めた。この場所、つまりBの新住所に当たる空き地では、20年前にも何の説明もなく失踪した人物がいたというのだ。その人物も、ビルの幽霊の噂にまつわるもので、結局行方不明のまま事件は迷宮入りしたという。
同時に、スレッドにはBの過去の友人や知人からの書き込みも増えていった。彼らの証言は、Bが失踪直前に何らかのプレッシャーを感じていたことを示唆していた。学校やバイト先での対人問題、さらに噂される幽霊の話を意識しすぎた結果、精神的に追い詰められていたのではないかと。
そうした中、Aからの最後の投稿がなされた。「警察に相談し、最後のメッセージの位置情報を基にさらに捜索した結果、新しい手がかりが出てきた。Bがそのビルへ入って行く姿が、近くの防犯カメラに映っていた。だが、彼が出てくる映像はどこにもない」
この投稿の後、スレッドは次第に活気を失い、Aも登場しなくなった。それから数ヶ月が経ち、スレッドは徐々に掲示板の中で埋もれる存在となっていった。
このままでは何の解決にも至らない。この怪異は一体何なのか。Bは本当に幽霊の噂に飲まれてしまったのか? このスレッドが示唆するのは、我々が知りうる現実の隣に潜む、理解できない領域の存在だ。
何がBを消し去ったのか、それを推理するには、私たちの認識を超えるものに向き合わなければならないのかもしれない。理論も探し続けたが、最後に残るのは、この得体の知れない恐怖なのだ。页面に浮かぶはずの文字は、そのまま深い暗闇に吸い込まれていった。