失踪した友人の幻影

神隠し

これは、私がインタビューした山田さん(仮名)という方から聞いた話です。山田さんは現在は普通のサラリーマンですが、彼が大学生の頃に経験した出来事が、いまだに彼の心に深い影を落としています。

私が大学二年生の夏休みのことです。友人たちと山奥のキャンプ場に出かけました。山間にあるそのキャンプ場は、自然の美しさを満喫できると評判でしたが、周囲には人家もなく、携帯の電波もほとんど届かない場所でした。その夜、私たちは小さなバンガローを借りて泊まりました。晩ご飯を食べた後、外で星を見ながら酒を飲み、深夜になって眠りにつきました。

翌朝、一人の友人Aがいないことに気づきました。最初は冗談だと思い、彼の名前を呼びながらバンガローの周りを探しましたが、彼の姿はどこにもありませんでした。焦燥感が募る中、私たちはさらに広範囲にわたって探し始めました。森の中、川沿い、キャンプ場の近くの道――どこを探しても彼はいませんでした。

それからの数日、私たちは地元の警察に協力して捜索を行いましたが、手がかりは何一つ見つからず、まるで彼が突然消えてしまったかのようでした。キャンプ場のスタッフも彼の姿を見た人はいないといいます。警察は事件性はないと判断し、捜索は打ち切られました。Aの家族も当然、非常に心配していましたが、私たちにできることはほとんど残っていませんでした。

帰りの車中、皆無言でした。何か大きな力が彼を連れ去ったとしか思えず、説明のつかない不安が胸を締め付けました。その後、Aのことを思い出す度に疲労感と説明しがたい不安感が襲います。彼はどこへ行ってしまったのか、それとも私たちが知らない間に何か恐ろしい事に巻き込まれたのか、それを考えると眠れなくなることもありました。

年月が流れ、私は社会人になりました。Aの失踪も次第に風化し、周囲から語られることも減りました。しかし、それから数年後のある出来事が、私たちの生活を再び狂わせました。

ある日、仕事を終えて帰宅中の電車の中で、私はふと視線を感じて顔を上げると、そこには信じられないことにAがいたのです。彼は紛れもなくAで、当時と同じ姿のままでした。私の心臓は激しく鼓動し、一瞬息が止まったようでした。「A?」と勇気を出して声をかけたが、彼は微笑んで何も言わず、ただじっと私を見つめるだけでした。次の駅で彼は電車を降りていきましたが、私も慌てて彼を追いかけました。ホームに降り立ったときには、彼の姿はもうどこにも見えなくなっていました。

その出来事があってからというものの、私は何度もAの姿を街中で見かけるようになりました。遠くから見れば確かにAなのですが、近づくと彼は人混みに消えてしまうのです。私の精神状態は次第に不安定になり、日常生活にも支障をきたすようになっていました。

意を決して、当時の仲間にこの話をしたところ、彼らも同じような体験をしていることがわかりました。皆、どこかしらでAの姿を見かけていたのです。まるで、彼が私たちをどこかへ誘おうとしているかのように……。

ある日、昔キャンプで泊まったバンガローを再訪することを決意しました。それは、私たちの間で未解決の謎に再び向き合うための最後の賭けでした。夜になり、その場所に近づくにつれて、次第に寒気と強い恐怖感が襲ってきました。そして、バンガローに到着したとき、私たちの目に飛び込んできたのは、あの日と変わらぬ星空の下、佇むAの姿でした。彼はゆっくりとこちらを振り返り、微笑みながら手を振りました。

その姿を捉えた瞬間、私たちは理解しました。Aは戻っては来ていたのです。しかし、それは私たちの知るAではない『何か別のもの』になってしまったのでした。それに気づいた瞬間、私たちは恐怖心に囚われ、気が付けばその場から逃げ出していました。

この話が終わると、山田さんは静かに言いました。「もう二度と、あの場所には行くことはないでしょう。でも、彼のことを忘れることもないでしょう。なぜなら、彼はまだどこかで私たちを見ているのですから」と。

私がこのインタビューを終えた後も、山田さんの話は私の心に深く刻まれ続けています。果たして、Aが戻ってきたのは本当だったのか、それとも彼が言っていたように何か別の存在となっていたのか。そんなことを考えるだけで、私は身震いを禁じ得ませんでした。

タイトルとURLをコピーしました