夜中の足音 – ネット掲示板の恐怖体験

ネット怪談

最近、俺が体験した出来事をここに書き込む。正直、誰かに聞いてもらわないと気が狂いそうなんだ。信じる信じないは自由だが、これは実際に俺が体験したことだ。

俺は名前は伏せるけど、都内の普通の会社員だ。仕事柄、割と残業が多くて、家に帰るのは大抵真夜中。独り暮らしだから、誰かと話すこともなく、そのまま眠ることが多い。だからこそ、夜中のインターネット掲示板が俺の唯一と言っていいほどの交流の場なんだ。

ある日の夜、いつも通り仕事を終えて家に帰ってきた。時計の針は午前1時を回っていた。シャワーを浴びて一息ついた後、俺はいつものようにパソコンを開いて掲示板を覗くことにした。特に目的はなかったんだが、ふと「最新の投稿」というリンクが目に入った。クリックしてみると、そこには一つのスレッドがあった。

スレッドのタイトルは「夜中に聞こえる足音」だった。まあ、ありがちな怖い話だと思いながらも、何故かその日は興味をそそられた。スレッドを開いてみると、最初の投稿がこうだった。

俺と同じように夜中に帰宅する人の話で、家に帰ると明らかに自分しか住んでいないはずの部屋から足音が聞こえるという。最初は気のせいかと思ったが、何日か続いて、だんだんと足音が大きくなってきたという内容だった。

ああ、また典型的な作り話だと思いつつも、その投稿には何か引き込まれるものがあった。そして次々とそのスレッドには、他の人たちも同じような体験を書き込んでいた。皆が言うには、「足音」は一度聞こえ始めると、止まることはないそうだ。むしろ時間と共に足音が近づいてきて、何かがそこにいるような気配がするという。

その夜は特に何も起きなかったが、翌日も気になってスレッドをチェックしていた。投稿者たちの中には、とうとう「それ」が姿を現した、と書く者も出てきた。黒い影のようなものが部屋の隅に立っていた、その顔は見えなかったけれど、冷たい視線を感じた、と。

気味が悪いと思いながら、その話にどっぷりと嵌ってしまった俺は、次の日もまたそのスレッドを見てしまった。ある夜、ついに俺の耳にも「それ」は訪れた。

その日もやはり夜遅く帰宅し、シャワーを浴びていつものように掲示板をチェックしていた。すると、かすかにだが、確かに俺の部屋から足音が聞こえてきた。最初は隣の部屋の音が壁を伝って聞こえているんじゃないかと思ったが、徐々に音は鮮明になり、間違いなく俺の部屋の中からだった。

その瞬間、背筋に冷たいものが走った。恐る恐る耳を澄ませていると、足音が次第に大きくなり、まるで誰かが俺のいる部屋に近づいてきているようだった。そして音は、突然止まった。

部屋の中は静まり返っている。心臓の鼓動がやたらと大きく聞こえる。ふと、頭の中に過った最悪のシナリオに体が固まった。もしかしたら、俺の背後に「それ」がいるのではないか、と。

振り返る勇気はなかった。というか、振り返ったら何かがそこにいる気がした。恐怖で体が動かず、そのまま俺は机の上に突っ伏して気を失うように眠った。次の日、目を覚ました時には、何事もなかったかのように朝が来ていた。

その後、何日かはそんな状況が続いた。そしてそのたびに俺は「それ」が部屋の中を歩き回るのを感じながら、眠れない夜を過ごした。一度、思い切って電気をつけようとしたが、手が震えてスイッチに届かなかった。

そんなある日、いつものようにパソコンを開くと、掲示板のスレッドが更新されていた。「足音」を聞いている人たちが、多くが精神的に参ってしまっているようで「どうすればいいか」「誰か助けて」といった書き込みが増えている。中には警察に相談したが、何の証拠もないので対応してもらえなかったという人もいた。俺も似たようなものだった。明らかに自分には何かが見えているのに、誰も信じてくれない。

それから数日後、「それ」は新しい段階に突入したようだった。夜遅く帰宅し、またもや「足音」が聞こえ始めた。今回は最初から大きかった。一歩一歩、明らかに人間のそれとは違う不自然な音が部屋を徘徊している。恐怖で動けない俺に近づき、やがて俺の背後で止まった。そして、信じられないことに、その冷たい息遣いが首筋に感じられたんだ。

それはフッと笑った気がした。冗談とかそういうのではなく、本当に。

俺は咄嗟に振り向き、そして何もいないことを確認するまで、どれくらいの時間がかかったのかわからない。ただ、その間ずっと恐怖で身が凍ったようだった。そしていつものように体を丸めて眠りについた。

次の日、仕事もううつろに終えた俺は、またもや掲示板にすがる思いでそのスレッドを開いていた。しかし、そのページはすでに削除されていた。「ページが存在しません」という冷たい文字だけがそこにあった。

今では、あのスレッドが本当に存在していたのか、それとも俺の心が作り出したものだったのか、もはや確かめようがない。ただ、一つだけ確かなのは、その夜から「足音」は止んだということだ。

ただ、心のどこかでまだ、あの冷たい視線と気配がどこかに潜んでいる気がしてならない。もし同じような体験をしている人がいるなら、どうか気をつけてほしい。あまり深入りしない方がいい。

ネットの向こう側には、何が潜んでいるかわからないから。

タイトルとURLをコピーしました