【はじまり】
深夜2時過ぎ、静かな部屋の中でスマートフォンを握りながら、匿名掲示板に貼り付いていた。日常の喧騒から離れて、この時間だけが自分の本音を吐露できる場所のように思えた。投稿者「Nana」は、その真夜中のひとときを静かに過ごしていた。
【不吉な投稿】
その夜、掲示板には異様な書き込みが増えていた。タイトルは「見てはいけない画像を見たら、家に何か来る」。興味本位でスレッドを開くと、そこには不安を掻き立てるような文面が並んでいた。投稿者たちは皆、特定のURLを踏んだ瞬間から起こった出来事を語っていた。
「いや、さすがにネタだよね。」そう思いながらも、Nanaは用心深く、そのURLには触れず、ただ他人の体験談を読むだけにした。しかし、読めば読むほどにその内容は現実味を帯びてくる。
【その夜の来訪者】
少し怖くなり、寝ることに決めたが、布団に入っても目がさえてしまい、眠れないまま時間ばかりが過ぎた。時計の針は午前3時を指していた。
その時、突然インターホンが不気味に鳴り響く。こんな時間に訪問者があるはずもなく、Nanaはベッドの中で固まった。この時間に訪れるのは誰なのか、いやそもそも訪れる必要がない時間帯だ。しばらく静寂が戻り、安心したのも束の間、再びインターホンがけたたましく鳴り出す。
心拍数が高まり、なにか存在しないものがその向こうにいるような気がしてならなかった。一度、深呼吸をしてから、勇気を振り絞って覗き穴を確認する。しかし、そこには誰の姿もなかった。ただの悪戯だと思いたかったが、心の中の不安が消えない。
【異変のはじまり】
寝室に戻ろうとした瞬間、スマートフォンの画面が明るく光った。「誰か」のメッセージが、ここを訪れたのがただの悪戯ではないことを物語っていた。「気づいた?」と書かれたその一文に、背筋が凍る思いだった。
その瞬間、部屋の奥からずるずると何かを引きずる音が聞こえてきた。まるで重い何かが床を這っているようだった。Nanaは息を殺し、音の方向をじっと見つめた。視線の先には薄暗い闇がうごめいている。
【姿の見えぬ影】
その「何か」は形を変えながら、ベッドの下へとゆっくりといやらしく潜り込んで行った。Nanaは震える手で布団を握りしめた。異様なまでの恐怖感に囚われ、動くことができなかった。
「早く逃げたい。」そう思っても足が言うことを聞かず、体は金縛りにあったかのように固まっていた。それはただの誤作動のカーテンかもしれない、それが床に落ちた音であるのかもしれない。理性で思い込もうとしても、感覚はそれを許さなかった。
【再び、ネットの中】
なんとかして気を紛らわせようと、再びスマートフォンを手に取る。先ほどの掲示板は新しい書き込みで溢れていた。「それは家の中に入ったら、もう最後」「見た瞬間、部屋から出られなくなった」といった内容ばかりだった。
Nanaは書き込みを見ながら、同じような運命を辿っていることを強烈に感じ取った。「誰か、助けて」と心の中で叫びながら、投稿ボタンを押したくなった。だが、その瞬間、スマートフォンの画面が突然真っ暗になり、何も映らなくなった。
【夜明けとともに】
Nanaは緊張のあまり、重たい瞼を降ろした。時々、金縛りから逃げるように、身体を動かしてみるが、怯える心が限界を迎えるまで続けることができなかった。
そして、気づけば薄明かりが差し込み始める頃には、Nanaはベッドの上で丸くなったまま、疲労で意識を失っていた。目を覚ますと、朝の光が部屋を照らしていた。昨夜の出来事が夢だったのか、現実だったのか、境界が曖昧になっていた。
【安堵と不安】
夜のことを夢だと思いたかったが、胸にはまだ冷たい恐怖の欠片が残っている。インターホンや謎の音の記憶が鮮明によみがえり、現実逃避したくなる衝動を必死に抑えていた。
再度、フォームを開けられる余裕はなく、それでもNanaは鳴り止まない警報を無視できなかった。そして胸中、「無事なのか」という思いだけがひたすら巡っていた。他のユーザーたちの運命が、ふと、思い出されたのだ。
【最後のメール】
その日、Nanaが急ぎの用事で家に戻ると、1通のメールが届いていた。送り主不明のそのメールは短く、ただ一言「あなたには、時間がありません」とだけ書かれていた。何が目的なのかわからず、Nanaはただ恐怖に打ち震えた。
薄暗闇の中に身を寄せ合っていた昨夜の恐怖への余韻。その無言の脅迫が次第に現実を侵食し始めていた。この一文がもたらす存在感は、まだNanaの心を解き放たない。次に彼女が選択した行動が、命運を分ける鍵になるかもしれない。
【結末への導き】
不安な状態のままNanaは、掲示板への最後の投稿を考え始めた。この奇妙な連鎖を断ち切る方法を、見知らぬ誰かの力を借りて見つけ出そうとしたのだ。ピースをつなぎ合わせることで見える新たな形、そこに待っているものは、一体何なのか。
鼓動が夜空に響く昨夜と同じように、Nanaは深呼吸をし、画面越しの世界と向き合った。誰にも託せない決断を下すことで、自分自身の未来に向かって歩み出したのだった。
【エピローグ】
誰かが見ているような気配を背中に感じながら、ゆっくりとリンクをクリックした。「無事に戻ってこれるかはわからないけれど、これが最善の方法なのだろう」という思いとともに。
深く深く沈むような、その感覚は、まさにディスプレイの向こう側に広がる、本当に恐れるべき世界への誘いだった。画面に映る景色が薄れていく最後の瞬間、Nanaは遠くから何か、不思議な声を耳にした。もはや、その声が何を語っているのかは、彼女には届かない。
ネットの奥底に潜む無数の恐怖は、見えない形で広がり続け、知らない誰かがまた、深い迷路の中で迷い込むかもしれない。けれど、この不可解な夜の輪舞曲は、まだ誰にも知る由もない、彼方で静かに幕を下ろしたのだ。