夜の訪問者と消えた恐怖の伝説

都市伝説

それは私の知人の友人が体験した、ある奇妙な出来事にまつわる話です。かつて彼は、ほんの数年前に引っ越してきたばかりの田舎町に住んでいました。そこは、四方を山々に囲まれ、夜になると漆黒の闇が町全体を包むような、いささか神秘的で不気味な土地でした。

その地には古くから伝わる噂がありました。人々はそれを「夜の訪問者」と呼んでいましたが、明確な姿かたちを見た者はいないようでした。しかし、確かにその存在は感じられ、何人かの人々が奇異な体験を報告していました。噂によると、深夜の2時を過ぎた頃、誰もが眠りにつく静寂の時間帯に、その訪問者は現れるのだといいます。

ある晩のこと、彼は寝室の窓の外から微かな気配を感じて目を覚ましました。最初は風の音かとも思いましたが、それにしてはあまりに整然としており、何かが意図的に動いているような気がしました。ベッドの上で静かに息を殺しながら耳を澄ませると、それは確かに窓のすぐ外側にいることが感じられました。どうすることもできず、ただ恐怖に囚われて身動きがとれないまま朝を待ちました。夜が明け始めるとともに、その気配は消えていきましたが、彼が眠りにつくことはありませんでした。

翌日、勇気を振り絞って彼は友人にそのことを話しました。友人は慎重に耳を傾け、しばらくの沈黙の後で「ああ、それはきっと“夜の訪問者”に違いない」と呟きました。友人によれば、その訪問者は、かつてこの地で不可解な死を遂げた人々の魂がしばしば戻ってきて何かを探し求めているのだと言われているのです。何を探しているのかを知る者はいませんでした。友人の言葉を聞いても、彼の不安は解消されることはなく、逆にその恐怖は増していくばかりでした。

日が経つにつれ、彼はその夜の出来事を忘れようとしましたが、不安は消え去ることなく心の深くに根を張り続けました。そして彼は再び、あの気配に襲われる夜を迎えました。今度は前とは違い、明らかに自分の眠りを妨げようとする何かが存在することを直感しました。再び眠れぬ夜を過ごした彼は、一つの決断を下しました。それは、この町を去るというものでした。

だが、その決断を実行する前に、彼はもう一つだけ試みたいことがありました。それは、この町の古老を訪ね、噂の真実を確かめようとすることでした。その老女はこの町に長く住んでおり、彼女の言葉にはどこか説得力がありました。

老女は彼の話を静かに聞き終えた後、しわくちゃな手で彼の肩に触れ、「あの者たちは部外者を歓迎しないのですよ」と静かに告げました。「でも、恐れることはありません。彼らもただ、何かを伝えようとしているに過ぎないのです」と。

そんな老女の言葉が彼をほんの少し安心させたのかもしれませんが、彼の心の重荷は取り除かれることはありませんでした。それでも何かしらの安堵の中で彼は再び夜を迎えました。そして、その夜、彼は初めて窓を開け放ち、その訪問者に向き合う覚悟を決めました。

時計の針が2時を指すころ、再び、あの気配が窓の向こうから感じられました。恐怖に震えながらも、彼は窓の外を見つめました。しかし、そこには何も見えません。ただ、夜の静寂だけが広がっているだけでした。彼はゆっくりと窓を閉めると、「あなたが何を探しているのかはわかりませんが、私にはその力はありません」と小声で呟きました。

その瞬間、不意に風が彼の頬を撫で、何か囁き声が聞こえたような気がしました。それは決して脅かすようなものではなく、むしろどこか懐かしさを感じさせるものでした。その奇妙な夜が明けると、それ以来、彼のもとにその訪問者は現れなくなりました。

長い月日が流れ、彼はその町を離れ、新たな生活を始めましたが、時折あの夜のことを思い出しては、静かに微笑むのです。そして、振り返ることなく彼は言います。「あれは、ただの都会の伝説だったのだろうか」と。

彼の話は誰にでも信じられるものではありません。でも、私たちの身の回りには、誰にも説明のできない奇妙な出来事が時には存在し、我々を不安にさせることがあるのは確かです。それが本当に「夜の訪問者」だったのか、それとも彼の心の奥底に潜む何かが恐怖を現出させたのかは、私たちに知る術はありません。ただ、一つ確かなことは、「恐怖」というものは何か見えないものが影響を与え我々を支配してしまうことがある、ということです。彼の体験は都市のひそかな伝説として、今もなお語り継がれているのです。

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