ある晩、私はいつものように匿名掲示板を眺めていた。特に面白い話題がないかと目を走らせていると、一つのスレッドが目に留まった。「本当にあった怖い話」というそのスレッドには、奇妙なほど引き込まれる投稿が連なっていた。
「これは現実に起こっていることだ。」という書き出しから始まるそれは、見知らぬ土地を彷徨っているかのような、不安で落ち着かない気持ちにさせるものだった。一行一行読み進めるたびに、私はまるでその場にいるかのような錯覚を覚えた。投稿者は「K」と名乗り、自分が体験した恐怖について語っていた。
Kはある日、趣味で訪れた骨董品店で一枚の古い鏡を見つけたという。その鏡はアンティークのような重厚感があり、一目惚れしたKはすぐに購入を決めた。しかし、その鏡を手に入れてからというもの、彼の周囲では不可解な出来事が起こり始めた。
まず、鏡を部屋に運び入れた翌朝、彼が目覚めると少しずつ変わっていく自分の顔を鏡の中に見た。初日は気のせいだと思ったものの、翌日もまた、普段は目にしないはずの微細な変化が現れた。まるで誰かが彼の顔に手を加えているようだった。
そして、夜になると鏡はおかしな音を立て始めた。どこからともなく囁く声が聞こえ、部屋中に冷たい風が渦巻くように感じられた。Kは徐々に恐怖に怯え始め、自分の部屋で眠れなくなるほどだった。
ある晩、彼は意を決して鏡の前に座り込むと、その不気味な音を録音しようとした。録音デバイスをセットし、じっと息を潜めていると、確かに何かが話しかけてくるのを耳にした。それは彼自身の声で、「助けて」と何度も繰り返していたという。
その夜を境に、Kは毎晩悪夢にうなされるようになった。夢の中では、彼は鏡の中に閉じ込められ、何者かに追いかけられていた。目覚めるたびに冷や汗をかき、心臓の鼓動が止まらないほどの恐怖を味わった。
ある日、Kはとうとう業を煮やし、骨董品店の店主にこの鏡の素性を尋ねた。しかし、店主もその鏡に関しては詳しいことは何も知らないという。古い家の屋根裏に放置されていたものを買い取っただけだと説明された。
Kはついに、この鏡をどうにかしなければ自分が狂ってしまうと考え、掲示板に助けを求めることにした。スレッドの投稿はそこで終わっていたが、その後も続々と他のユーザーたちからの反応が寄せられた。
「同じような鏡を持っていたことがある」という者もいれば、「その鏡は呪われている可能性が高い」と断言する者もいた。さらには専門家を名乗るユーザーが現れ、その鏡の背後にある恐ろしい呪術について遠隔での除霊を提案するものもいた。
Kはそのアドバイスに従い、呪術師と連絡を取ることにした。除霊の方法を教えてもらい、教えられた通りに儀式を進めていった。香を焚き、聖水を鏡に振りかけ、呪文を唱え続けるK。すると、突然鏡がひび割れた。
そのひびからは何か得体の知れないものが流れ出し、まるで生き物のように動き始めた。Kは恐怖のあまり立ち尽くし、ただ見つめることしかできなかった。その物体は蛇のように床を這って移動し、彼の足元で消えた。
鏡を手放す決意をしたKは、それを近くの廃棄場に捨てることにした。それからというもの、不思議な出来事はぴたりと止んだ。安心した彼は、ようやく静かな日常を取り戻したかに思えた。
しかし、投稿の最後にはこう結ばれていた。「もしも、あなたがこの鏡を見かけたなら、決して家に持ち帰らないでください。そうでなければ、次に囚われるのはあなたかもしれません。」
このKの投稿は、掲示板の中で大きな反響を呼び、さまざまな議論を巻き起こした。果たしてこの体験は真実なのか、ただの作り話なのか。それでも、多くの人々を魅了し続けていることだけは間違いなかった。
その後も時折、同じ内容のスレッドが再び立ち上がり、噂はネット上で静かに拡散されていった。鏡よ鏡、誰が一番恐ろしいのか。それを知るのは、まだこの物語を信じている彼ら自身であるのかもしれない。