ぼくのおうちは、すごく古いです。おじいちゃんの、もっとむかしからあるんだって。あるひ、おかあさんが、「ここには昔から幽霊が出るっていう噂があるのよ」っていいました。ぼくは、幽霊ってなんだろうって思いました。おかあさんは、「幽霊は、死んだ人がこの世に未練をもって現れるものなの」と話してくれました。
そうして、ある晩、ぼくはふしぎなことに気がつきました。夜ねるとき、ぼくのへやの窓から、白いかげがのぞいていたのです。最初は、ともだちのイチローくんがぼくをからかいにきたんだと思いました。でも、よく見ると、その白いかげはふわふわと空に浮いていました。「イチローくんじゃないみたいだ」と思いました。
つぎの日、おかあさんにそのことを言いましたが、「たぶん、夢を見たんじゃないかしら」と笑われました。でも、ぼくは夢なんかじゃないって思いました。だって、毎晩その白いかげは窓からぼくを見ているんです。
それから、ぼくは学校のみんなに話してみました。だけど、みんなは、「ゆうれいなんてないよ」「そんなのうそだ」と言いました。ぼくは、ちょっぴりさみしくなりました。
あるよる、ぼくはもどりなく窓をのぞいて、その白いかげに話しかけることにしました。「きみはだれ?」と聞いてみたら、その白いかげはぼくの質問に答えてくれたんです。「ぼくは、ここの家でしんでしまった子どものれいだよ」と言いました。ぼくはびっくりしました。だって、死んでしまった子どもと話すのは、変な感じでした。
れいは、もっと話してくれました。「むかし、ここで火事があって、ぼくは逃げられなかったんだ。それで、ここにとじこめられているんだ。」ぼくは、かわいそうに思いました。だって、火事でにげられなかったなんて、こわいし、さびしいと思いました。
れいは、「ぼくは、まだこのせかいからさよならできない。だから、毎晩こうやってこの場所に来るんだ」とそう言いました。ぼくは、「どうしたらさよならできるの?」とききました。すると、れいは「たぶん、ぼくのことを思い出してくれる人がいるなら、きえることができるんじゃないかな」といいました。
それから、ぼくは、ひとりで考えました。おかあさんにまた話したら、きっとまた笑われちゃう。でも、ぼくはこのれいがいなくなるように手伝いたい。だから、ぼくは、おじいちゃんにきくことにしました。おじいちゃんは物知りだから、何かわかるかもしれないと思いました。
おじいちゃんはぼくの話をきいて、すごくしんけんにうなずきました。そして、「その話は、たしかにむかしあったよ。その子は、近所ではとても元気でお友達がいっぱいだったんだ。彼を知っている人は、だんだんすくなくなってしまったけれど、決してわすれてはいけないと思っている人はまだいるよ」と言ってくれました。
ぼくは、ちょっと嬉しくなりました。おじいちゃんの言葉をれいに伝えることができたら、もしかしてれいは安心するかもしれないって思ったからです。そして、そのよる、窓の外の白いかげに、「君のこと、まだ忘れてない人がいるよ」と話しました。れいは、ちょっぴりうれしそうに見えました。
そのあとからは、不思議なことに、その白いかげは見えなくなりました。ぼくは、もしかしたら、れいはこのせかいをさよならできたのかもしれないとおもいました。やっぱり、おじいちゃんが言ってたように、だれかに思い出してもらえるのは、大切なんだと思いました。
それから、ぼくは時々、そのれいのことをおもいだしました。だって、ぼくがそのことをわすれちゃったら、またどこかでさびしくなっちゃうかもしれないからです。おかあさんは、「最近は、元気そうね。何か楽しいことがあったの?」と聞きました。ぼくはにっこりして、「うん」とだけ答えました。ぼくのこころのなかには、だれにもいわない秘密があって、それがちょっとだけぼくを強くしてくれた気がしたんだ。