公園に佇む女性の謎

日常崩壊

私が体験した話は、今でも思い出すたびに背筋が凍る。この話を聞いた後、あなたの周りの日常が少しでも変わって見えてしまったら、申し訳ない。

その日、私はいつものように仕事を終え、駅から家に向かって歩いていた。特に変わったことは何もない夜だった。街灯がゆらゆらと光を放ち、時折吹く夜風が少し肌寒く感じられた。もうすぐ春だな、なんて考えながら、いつも通りの道を歩いていた。

私の住んでいるエリアは、特に目立つことはない静かな住宅街だ。家並みも古いが、人々は皆親切で、トラブルなどほとんどない。駅から家までの道のりには、小さな公園がひとつだけあって、そこを通るのが私の帰宅ルートだ。

その夜も同じように公園を通って帰ろうとした。通常、公園には誰もいない。しかし、その夜は違った。街灯の下に、ひとりの女性がぽつんと立っていたのだ。彼女はベンチの隅に座るでもなく、ただぼんやりと立っていた。なんとなく不気味だと感じて、私は少し早足で通りすぎた。

翌日もまた、その公園を通った。いつものように仕事帰りの時間だ。夜は深まり、やはり公園は薄暗い。そこで再び、その女性を見かけた。今日も同じ場所に立っている。昨夜とまったく同じ位置だ。それに気づいた瞬間、なんだか嫌な予感がした。普通ではない。だが、私は意識的にその理由を考えないようにして、足早にその場を去った。

次の日の夜、とうとう私は反対方向の道を選んだ。遠回りにはなるが、不安を感じながら帰るのはどうしても避けたかったのだ。しかし、その次の日もまた、その次の日も、どうしてもその公園を思い出してしまう。あの女性が、あれ以来ずっとそこに立ち続けているのかと考えると、恐怖というよりも何か強い引力のようなものを感じた。

そして、一週間が過ぎたある夜、私は再びいつもの帰り道を選んだ。やはり気になって仕方がなかったのだ。公園に近づくにつれて、心臓の鼓動が速くなり、喉がひどく渇くのを感じた。公園の入口が見えると、その女性はそこに立っていた。まるで待ち構えていたかのように。

その夜の彼女は以前と異なっていた。街灯の光のせいか、それとも私の恐怖心のせいかはわからないが、彼女の輪郭はぼやけていて、不確かな存在のように見えた。そしてその顔は、微笑んでいるようにも、ただ無表情でいるようにも見えた。

私はその場を逃げ出したい衝動に駆られたが、なぜか足が動かない。彼女の視線が私の動きを封じているように感じられた。恐怖が限界に達したとき、彼女がふと、静かに手を挙げた。何かを私に伝えようとしているのだと理解した瞬間、全身に鳥肌が立った。

聞こえない声、見えない口が何かを言っているようだった。私はどうにかして視線を外し、全速力でその場を離れた。背後から彼女の視線が追いかけてくる錯覚に襲われ、心の中では叫び声を上げていた。

家にたどり着くなり、私はドアを閉めて鍵をかけた。全身が震え、心臓は今にも飛び出しそうだった。何が私をそこで引き止めていたのか、その理由は未だにわからない。ただ、彼女が何かを伝えたがっていたのは確かだった。

その翌日、私は会社を休んだ。あの気味の悪い体験が頭から離れず、その夜もガタガタ震えながら眠りについた。翌朝になっても、あの公園に行く勇気はどうしても湧かなかった。それでも、私の好奇心と恐怖心は燻り続けた。

久しぶりに公園を訪れたのは、それから数週間が経った日のことだった。太陽がまぶしく、時間帯は小学生がちょうど学校に向かっている頃だった。公園には笑い声が響いていた。その場所に彼女の姿はもうなかった。何事もなかったかのように、人々の日常が続いていた。

だが、私は彼女の不在によってようやく一息つきながらも、なぜか胸の奥に深い不安を感じていた。それはまるで、彼女がまた夜になると現れるのではないかという予感のようだった。

夜が近づくにつれて、その不安は再び私を支配し始めた。あの時のことを忘れようと努めたが、それは徒労に終わった。そして、あの夜の出来事はその後も何度も私の夢に現れ、目覚めた時には決まって冷汗をかいていた。

その後、私はその公園を通ることは極力避け続けた。だが、ある日またしてもあの公園の話を耳にしてしまった。近所で火事があり、夜中に付近にいた学生が見つけたという話だ。直感的に、私は彼女と関連していると思った。彼女が何かを伝えようとしていたのは、火事に関係があったのではないかと。

しばらくして、私はその公園での出来事がテレビのニュースになっているのを見た。公園の近くに放置されていた家具が原因で、火が出たという。そして、その場所には、何を意味するのか理解出来ないが、古い写真立てが残されていたというのだ。

そのニュースを見た後、私は公園に行って確かめる決心をした。不安を押し殺し、再びそこを訪れた時には、もう何も変わらなかった。だが、今でも、あの夜に見た彼女の姿が、どこかで私を観ているような気がしてならない。

この話を思い出した今も、周りの風景が少し違って見える瞬間がある。もしかしたら、彼女はまだそこにいて、誰かに何かを伝えようと待ち続けているのかもしれない。あなたがこの話を聞いて、何か奇妙な影を見かけたなら、それはもしかしたら、彼女なのかもしれない。

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