私は、その夏の不思議な体験を、誰かに伝えたいと思っています。あれ以来、私は夜が来るたびにあの時の出来事を思い出し、眠れない夜を過ごすことが多くなりました。これは、私が大学四年生の夏休みに田舎の実家に戻っていたときの話です。
私の実家は、山深い小さな村にあります。村には住人が数十人しかおらず、自然が豊かで、夜になると星空がとても美しい場所です。そして、祖父母の家から少し歩いたところには、親戚が住んでいる古い家がありました。その家は、私が幼い頃から頻繁に訪れる場所で、親戚の叔父と叔母、そして従兄妹たちが住んでいました。
その日、私は夕方に散歩がてら親戚の家を訪れることにしました。夕食を共にし、夜遅くまで話に花を咲かせていたのです。夜が更け、帰ろうとしたとき、叔父が「面白い話を聞かせてやろう」と言い出しました。叔父は昔から不思議な話や怖い話をするのが上手で、私たちをいつも魅了していたのです。
今回は、「この家の地下室にまつわる話」をしてくれるというのです。この家には、以前から地下室があることは知っていましたが、大人たちから「危ないから入るな」と言われていたので、私もそれ以上興味を持つことはありませんでした。しかし、叔父の話によれば、その地下室には「何か」がいるというのです。
「そこは、私の祖父が建てた家だから、よく知っているけれど、昔からあまりいい噂はないんだ」と叔父は語り始めました。「特に、夜中に地下に入ると奇妙な音が聞こえてくるっていうんだ」。
話の内容は、昼間は何もないのに、夜になると謎の足音が聞こえてくるということでした。さらに、何人かの村人が一人で地下室に入った後、そのまま姿を消してしまったというのです。最初は冗談半分に聞いていましたが、その話を聞くうちに、私はぞくぞくとした寒気を感じるようになりました。
その夜、帰宅した私はどうしてもその話が頭から離れず、寝付けないでいました。明け方近くになって、少しだけうとうとしてきたその時、ふと窓の外に人影を見ました。それは、明らかに叔父たちの家の方へ歩いて行くように見えたのです。誰かがこんな夜中に歩いているのはおかしいと思い、私は急いで服を着替え、外に飛び出しました。
家から出てすぐ、まだ薄暗い夜道を、私は親戚の家まで走って行きました。小さな道を全力で駆け抜けると、姿が見えたと思った人影はまるで消えてしまったかのように、跡形もなくなっていたのです。親戚の家の前に立ち尽くして、私は一瞬どうするべきか迷いました。でも、こんな時間に訪ねて起こすのもためらわれたので、とりあえず帰ろうと思ったその時でした。
一瞬の閃光とともに、激しい雷鳴が轟き、私ははっとしてその場にしゃがみ込んでしまいました。そのまましばらく雨が降る様子もなかったのですが、その一瞬がとても長く感じられ、恐怖が私を覆い尽くしていました。ふと顔を上げると、親戚の家の地下室の窓から確かに光が漏れていました。
結局私は勇気を振り絞り、その地下室に向かうことにしました。玄関の鍵は開いており、家の中は静まり返っていました。地下への入口は台所の隅にあり、私はその扉を恐る恐る開けました。足を一歩踏み入れるたびに、古い木の階段が軋んで音を立てました。
地下室は思ったよりも広く、壁の棚には古い本や雑貨で埋め尽くされていました。そこで私はさらに驚くべきものを見つけたのです。一冊の古びた日記が置かれていたのです。『誰のものだろう…』と思い手に取りました。日記にはかつてこの家に住んでいたという人々のことが記されており、その最後のページに不思議な書き込みがしてありました。
「地下に何かがいる」
その言葉を見た瞬間、背筋が寒くなり、本能的に逃げ出したい衝動に駆られました。しかしそれと同時に、地下室の奥から低いうめき声のような音が聞こえてきました。ふとそちらを向くと、そこにはぼろぼろの布に覆われた何かがじっとこちらを見ていたのです。恐怖が限界に達し、私は地下室を飛び出して、そのまま家まで一目散に逃げ帰りました。
その後、親戚が起き出してきてあの地下室を調べたそうですが、特に不審なものは何も見つからなかったといいます。あの時見たものが何であったのか、確かめる方法はもうありません。ただ、あの体験以来、それまでは何も恐れずにいた私でも、夜の静けさの中に様々な恐怖を感じるようになったのです。
このようにして、私は忘れられない夏の経験をすることになりました。あの地下室にまつわる話は一体全体何だったのか、結局わからずじまいです。ですが、これが実話であることは確かです。一度でも、実際にあの場所に足を踏み入れた私だからこそ、語れる話なのです。これ以降、私はもうあの家に近づくことはありませんでした。夜、その家のほうを見るたびに、あの日のことを思い出すので、今でも胸がざわつくのです。どうか、あなたの身には、これが訪れんことを…。