不気味な壁の模様と得体の知れない恐怖

日常崩壊

私の名前は佐藤健太、30代のサラリーマンです。これは、私が実際に体験した日常が少しずつ崩れていく出来事の記録です。普段の生活の中での違和感が次第に増し、恐怖に変わっていくそのプロセスを振り返ると、今でも背筋が凍ります。

それは数ヶ月前、春が終わろうとしている5月の中頃から始まりました。私は田舎町に住んでおり、毎朝自転車で駅まで通っています。その日もいつもと同じように家を出て、駅へ向かいました。途中、いつも通る細い路地があるのですが、その路地の壁に今まで見たこともない妙な模様が描かれていました。それは赤黒い塗料で、何かの象形文字のように見えました。

特に不吉な感じは受けなかったのですが、少し気にはなったので、スマホで写真を撮りました。そしてそのまま会社へと向かいました。仕事が終わり、帰宅する際、再度その道を通ったのですが、昼間見たときと同じ模様がそこにありました。誰が描いたものか気になりましたが、特に追求せず、普通の日常の一部として受け流しました。

それから数日後、またその壁の前を通ると、描かれている模様が増えていました。最初に見たものよりも複雑な模様で、さらに色が濃くなっているように見えました。一瞬、自分の記憶違いかと思い、先日撮った写真を見返しました。間違いありません、確かに増えています。

私は不思議な感じを覚えつつも、その日はそのまま通り過ぎました。しかし、その翌日またその場所を通ると、さらに模様が増えており、ついに壁一面を覆うようになっていました。しかも、その模様の中には、顔のような形が現れていたのです。それを見た瞬間、私は鳥肌が立ち、得体の知れない恐怖を感じました。

その晩、家に帰ってからも何かがずっと気になって仕方がありませんでした。もしかしたら誰かのいたずらか、または地域のアートプロジェクトかもしれないと自分に言い聞かせましたが、不安は拭えませんでした。夢の中でもその壁のことが出てきて、私は安眠を得ることができませんでした。

さらに奇妙なことが起こり始めました。ある日、会社からの帰りにその路地を通ったとき、壁の前には誰かが立ち止まっているのが見えました。背の低い中年の男性で、不自然に壁をじっと見つめていました。私はすれ違いざまに無言でその男性を観察していたのですが、彼がこちらを振り返ると急にニヤリと笑いました。その笑顔が恐ろしく、不気味でした。

次の日、その壁の前をまた通ると例の男性がまたそこにいました。今度は何やらぶつぶつと呟いています。その姿が気味が悪く、私はその場を急ぎ足で通り過ぎました。しかし、気味の悪いことは続きました。男性は毎日そこに立っているだけでなく、模様の中に現れる顔の形が日に日に変わっていくように見えました。

私は恐怖を感じ、ついに警察に相談することにしました。警察は模様を確認し、写真を撮って調査を始めてくれましたが、「いずれにせよ違法な落書きに過ぎず、特に危険はないでしょう」と軽く言われたのです。それでも心の不安は募るばかりでした。

それから数週間が経ち、模様は一層複雑になり、その顔の形が明確に人間の顔に見えるようになりました。その顔が、どう見ても私自身に似ているのです。私はもう限界でした。

ある夜、とうとう恐怖に耐えかねてその路地を通ることを避けるため、遠回りして帰宅することにしました。その道は暗く、普段通らない夜道だったのですが、そこでまたあの男性に出くわしたのです。彼は私の顔を見て微笑んでいます。逃げようとする私を彼は追いかけてきました。その瞬間、自転車で必死に逃げました。後ろの足音が迫ってくるたびに心臓が跳ね上がりそうでした。

どうにかこうにか家まで帰りつき、ドアを閉めて安全を確保しましたが、それ以降私は外に出るのが怖くなりました。会社には理由を作って休みを申し出ました。すると、家に迷惑電話がかかるようになったのです。電話の向こうは無言で、しばらくしてからガサガサと異音を立てて切れることが頻繁に起こりました。

もう家にいても安全とは思えず、私は考えを変えて旅に出、しばらく田舎の実家で生活することにしたのです。それからというもの、少しずつ心の安寧を取り戻していけました。結局私が目にしたものが何だったのか、なぜあのような出来事が起こったのかは未だに分かりません。しかし、あの路地を再び通ることは決してありません。日常が少しずつ崩れ去っていくあの恐怖を、もう二度と味わいたくはないのです。

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