かくれ里の奇妙な宿泊体験

風習

私は大学時代の友人である田中から奇妙な話を聞いた。彼は最近、休暇を利用して山深い集落に旅行に行ってきたという。その話は、彼がその村で体験した異様な出来事についてだった。

週末の夜、東京の居酒屋で私たちは集まり、田中はビールを片手に語り始めた。

「今回の旅行は、自然に触れてリフレッシュしたくて山奥の温泉地に行ったんだ。でも、道中で見つけた古い看板に興味がそそられて、予定を変更して『かくれ里の村』っていう集落を訪れることにしたんだ」

その村は観光地図にも載っておらず、彼はインターネットでも見つけることができなかったらしい。「きっと古くからの集落で、外部との接触を避けているんだろう」と、私は考えた。しかし、田中はそこで予想外の出来事に遭遇する。

村に着くと、歓迎されるわけでもなく、不気味な静けさが漂っていた。夕暮れ時だったこともあり、村全体が薄暗いオレンジ色に染まり、古い木造の家々が影のように立ち並んでいた。

「でも、興味本位で村を少し歩いたんだ」と、田中は言った。すると、奥の方から年老いた女性が現れ、「何かお探しかい?」と優しく声を掛けてきたそうだ。

「宿があるかどうか尋ねたんだけど、彼女は小さく笑って、『今夜は特別な夜だからお客さんなんて想定していなかったよ。でも、泊まれる場所を用意できるから安心して』と言ってくれたんだ」と田中は続ける。

彼女の案内で、小さな旅館のような古民家に泊まることになった。中は木目の美しい純和風で、田中はすっかり気に入ったらしい。だが、その夜から奇妙なことが次々と起こり始めた。

村の中心にある広場では、夜が深まるにつれ、人々が集まり始めた。太鼓の音とともに歌声が聞こえてきたのだ。田中は興味をそそられて早速見に行ったという。彼はその時点で、少しずつ不安を感じ始めた。

「何て言うか、楽しんでるのに笑顔がないんだ。村人たちはみんな白い服を着て、一様に無表情で踊っていたよ」と、彼は奇妙さを強調した。

次第に太鼓のリズムが激しくなり、踊りも激しさを増していくと、田中は異様な光景を目にすることになった。村人たちの中心に、巨大な木彫りの仮面が置かれていたのだ。

「その仮面はどう見ても普通じゃなかった。異様な迫力があって、空気が張り詰めるような感じだったよ」と田中は身震いしながら言った。

その際、一人の男が仮面を手にすると、村人たちは一斉にひれ伏した。男は何かを唱え始めたが、田中には聞き取れず、不気味さだけが心に残った。

しばらくすると、女主人が田中を見つけ、「今は宿に戻った方がいい」と彼を案内した。帰りの道すがらも、女主人は何も語らなかった。

眠れぬ夜を過ごした次の朝、田中は名残惜しさを感じながらも、その村をあとにした。村を離れる道中、ふと振り返ると、いつの間にか村の姿が霧に包まれて消えていたという。

「まるで夢の中の出来事みたいだった」と田中は言った。その後、彼はその村を探そうと何度も試みたが、二度と見つけることはできなかったらしい。

「なんだかあの村が現実なのか幻想なのか、いまだに分からないんだ」と、田中の言葉は締めくくられた。彼の話を聞き終えた私たちは、一瞬の静寂の後、乾杯をしてその場を後にした。

あの村には何か、人の理解を超える不思議が存在するのかもしれない。その後、私自身がその村を探しに出かけることは一度もないが、田中の体験談は私の心に不気味な印象を残した。何気ない日常でも、我々が知り得ない秘密が潜んでいるかもしれないと。私たちは、普段の生活の中で目に見えないものの存在を感じ取ることができるのだろうか。不思議と恐怖は、きっと紙一重なのだろう。

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