「静寂を破る楓の眼差し」

日常崩壊

2023年10月1日

今日もいつも通りの一日だった。朝は8時に起きて、コーヒーを淹れ、新聞を読みながらのんびりと過ごす。家の周りの木々もすっかり秋めいてきた。紅葉がはじまり、特に隣の家の大きな楓が見事だ。今日は仕事が休みだったので、午後には庭の手入れをした。曖昧な満足感が私を包み、大したことはしていないのに充実感がある。

2023年10月3日

昨日の夜、少し奇妙なことが起こった。深夜にふと目が覚め、窓の外を見たら、隣の楓の木が少し動いたように見えた。風もないのにだ。月明かりの下で、影が揺れているのが見えた。気のせいだと思うことにした。寝ぼけていたせいだろう。

2023年10月7日

最近、家の近所でまた交通事故があったらしい。静かな住宅街なので、騒ぎは珍しい。夜中に警察と救急車のサイレンが鳴り響き、不安が心に影を落とした。近所の人たちも何か噂話をしていたが、詳細はわからない。ただ、一つ気にかかるのは、事故現場が隣家の前の通りだということだ。

2023年10月10日

仕事から帰る途中、ふと違和感を覚えた。道端の街灯が一つ消えていた。普段は明るいと思っていた場所が、闇に包まれている。不思議と、同じようなことが家の周りで起きている気がしてならない。欠けていく光、曖昧な不安、何かが少しずつ薄暗く変わってゆく。

2023年10月15日

奇妙な夢を見た。隣の楓の木が大きな目玉を持っていて、それが私をじっと見つめているのだ。目が合った瞬間、恐怖が体中を走り抜け、ふと目が覚めた。今まで見たことのない夢なのに、なぜかとても現実感があった。夢のイメージが頭から離れない。

2023年10月18日

また事故が起きた。今度は少し遠い場所だったが、やはり隣家方面の通りだという。警察が頻繁に出入りしているのが見える。最近のこの騒動のおかげで、近所の人々の顔にも緊張が浮かんでいる。私はなぜか、このすべてが一つの点で結びついているような気がしてならない。

2023年10月21日

隣家の主人が奇妙なことを言っていた。「この辺りの空気が重い」と言うのだ。その言葉に、なぜか強い共感を覚えた。毎日の景色が少しずつ変わり、何かが崩れていくような感覚。「問題は木だ」と彼は続け、じっとその楓を見つめた。私はそれが何を意味するのかわからなかった。

2023年10月25日

自宅の照明が何度も点滅し始めた。電気会社に連絡したが、特に問題はないらしい。しかし、この現象が続くたびに、不気味さが増していく。照明の不具合だけなのに、なぜか心の奥に不安が積もる。光がちらつくたびに、何かが囁く音が聞こえる気がして、とても居心地が悪い。

2023年10月29日

昨晩、またあの夢を見た。しかし、今回は前よりも鮮明だった。楓の目がさらに大きくなり、私を飲み込もうとしていた。今回も恐怖で目が覚めたが、まだ夢の中にいるような感覚がしばらく抜けなかった。夜中に夢から醒めても、夢の中の音や感情が滲み出て身を包む。夢と現実の境界が曖昧になっているようだ。

2023年10月30日

家の前を通る通りが再び霧に包まれた。昼間なのに、街灯が灯されるほどだ。どこからともなく鳴る鈴のような音が、不安を掻き立てる。隣の家に目を向けると、何か動くものの影が窓を横切った。誰もいないはずなのに、自分の心が少しずつ壊れていくのを感じる。

2023年11月1日

昨夜、あの楓の目が現実に見えた。窓から外を見ると、目が私をじっと見つめていた。そして、私の心に直接語りかけてきた。「逃げられない」と。それ以来、私はこの家に囚われているような気がしてならない。自分の意志で窓の外を見られない。木が私のすべてを見透かしている気がする。

2023年11月3日

今日、町の電力が不安定になる現象が続いているようだ。それに合わせるように、外の楓の木がますます不気味に輝き始めた。街灯も、月の光も、あの木が思うままに操っているかのようだ。恐ろしくて、夜になるのが怖い。何が待ち受けているのか、考えるだけで心が凍りつく。

2023年11月5日

遂に、隣家の主人が引っ越すことになった。彼の言葉が脳裏にこびりついて離れない。「この街から逃げられなくなる前になんとかしろ」と声を震わせていた。私も引っ越すべきなのか。しかし、決断をする前に、もっと何かが見えてくる気がしている。視界だけでなく、感情までがぼやけるようだ。

2023年11月10日

電気がすべて切れた。真っ暗闇の中、私は姿の見えない何かに触れられた気がした。触れられる瞬間、あの楓の目が浮かぶ。これはもう、夢や錯覚の問題ではない。何かが紛れ込んでいる。すべてが崩壊し始めたとき、私はどうすればいいのか、考える力すら奪われていく。

この静かな町で、何が起こっているのか。それを知る手段は尽きたように思える。私の日常は、静かにしかし確実に終わりに向かっている。楓の木が、すべてを見つめている中で。

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