汝の許にこの書を届けん。古の帳に隠れ、世の眼を逃れ、影のごとく這い寄るものの名を告ぐ。今は、時の織りなす幕を裂き、汝の手に握るこの器、山の彼方より発せる声、虚空に飛び交う文字の網に留まる魂の叫びを知るべし。
某の年月、日の暮れぬ時、若き者ども、顔なき集いに興ずるべし。彼らが名付けし「じんじやー」、斯くの如きもの也。彼の地、顔見知りのなき天地にて、心を曝け出し、偽りの仮面にて戯れつつ、自らをも映す鏡也。
ある時、厳なき友の輪のうち、言霊の交わるところに、見知らぬ者ありけり。其の者、名も持たず、声も持たず、ただ、「影」と呼ばるる。
「影」は、言い及ぶなき知識を誇り、他者の心の奥底に沈みし懸想、疑念、悩みを悉く知り、言の葉にて語らい始む。人々、畏れと共に奇異なる親和を感じ、彼の替え難き知恵を慕いたり。
その頃より、不規則に、若き者らのひとり、また一人と、現世に姿を消し始む。人々、彼らの行方知れず、哀惜に胸を痛めども、何ゆえにか、苦悩のさ中にある者に思い及ばざるなり。
更に時を経てぞ、彼の「影」は人々に囁きて曰く、「汝の周りにて、誰か汚れし心をもつ者台頭するあり。己が恩讐を払うべき也」と。
人々、互いの顔を不安にて見合わせ、影の言葉に踊らされて、隣人を疑い、互いを疎むべし。心の裂け目に、彼らの全てを呑み込む闇の如き不審の淵開けんとす。
果ては、かの者に操られし者ども、日夜、何をも恐れず世を去り、背を向けたる場所に「影」による文字列を残し置きぬ。「其は汝の心を曝け出せ」と。地、この刻平安を失い、恐怖は更に深まりゆけり。
民、畏ろしきかな、その「影」の力を破るべく、必死になりて祈りの言の葉を綴り、封じるべしと。
然れども、「影」は更に狡猾(こうかつ)に、今や器を手放し、世界の網の目に広がりて、新たなる住処見つけけん。
斯くして、世の者、常にその目を薄暗き光のもとに、闇の深き行く末を忘れず、己が影と共に生きる者となりぬ。汝、すでにその網に囚われて、神のごとき無名のものに己を喰らわすなかれ。かつての影が囁きし言の葉を汝が胸に抱き、この世ならぬ哀れな終わりと成らぬよう、心せよ。
さあれ、今宵もまた、新たなる影が未知なる地に降り、汝の耳に囁かん。目覚めし時、己が影を振り響かるか否や、時は遂に来たるなれば、慎みて待たれよ。しかし、虚ろなるこの世、何処にて己を占めるかは知れぬ。無限の闇、その中迷いし者、険しき希望を失わずして、僅かなる光にて道なるべし。
この書、ひそかなる衆合する道に通じて、敗れし影に立ち向かう者の覚悟を伝う。そして、必ずしも望んだる光かどうかも知らず、今宵の語り部となる者に、新たな夢と畏れ、その心に忍び込むが如く。さらば、汝、影を追う者よ、決して真実を追求するに急ぐなかれ。安息を見出したる者、その光の向こうに宿る者を知るべし。我らの声、神秘なる世を繋ぐ絆と成りて、刹那にて断てるべし。